2011.06.17 Friday
マリヤム(仮名)の人生。

マリヤムはナデルとナスリンの娘。そしてサイドの姉である。
父ナデルはどうしようもない男だが、母ナスリンは働き者の明るい女だった。
マリヤムはそこそこ幸せな少女時代を過ごした。
それが急転したのは彼女が16の時である。
母ナスリンが病に倒れた。
母の入院中、母方の家族の叔母達は皆が団結してナスリンの家族を支えた。
ナデルが広間の片隅のガス式暖炉の煙突を開け、その前に背中を丸めて屈みこみ、
大麻樹脂をへばりつかせた太い針金をあぶって吸うのを見とめても誰も文句を言わず、
それで景気を付けて何かしら働いてその金で数日の食事の材料を買って来さえすれば
ナスリンの姉妹達はナデルを責めなかった。
ナスリンは自動車教習所の教官をしていた。
手術はしなかった。
たっぷり薬の入った点滴を受け、髪は抜けたけれども何度も回復した。
母の不在が長くなったせいか、あの父にしてこの息子あり、と言うべきか、
息子のサイドは悪さばかりするようになっていた。
しかし悪さで稼いだ金で母を喜ばせようと傷一つ無い果物を買ってくることもあった。
放蕩息子が何やって稼いだ金かわからないのに病室で周囲に聞こえるように
大きな声を出して喜び、チュッと大きな音をさせて弟にキスする母を苦々しく思ったこともあった。
しかし、優越感を抱くこともあったのだ。今に見てなさい、と。
弟のサイドは一人息子で彼がなんでも相続する権利がある。
マリヤムは母はこの病気に倒れ、父はあの調子、おそらく何も残らないだろうと考えた。
残るとすればこの大きくもない地方都市の少し値の上がり始めた祖母の土地の一部だろう。
アパルトマンを建てて叔母達で分け、クリニック専門でテナントを入れよう、と言うのは
日本人妻が居るかなり年上のいとこのアハマドだ。
こういう問題は足並を揃えるのに時間がかかる。
自分はそういう取り合いの争いに巻き込まれたくないで弟の名義にして
弟に何かあったら私に御鉢が回るようにして、とアハマドに言った。
もちろん、ナデルには何も任せられない、でもそれでいいのか?と言った。
テヘランからやってきて同席していたアハマドの妻、ナツミは言った。
「お見合いの話でもあるんだ?」
マリヤムはナツミがいつも黙ってその場に空気のように居て、話をすべて聞いているので
驚くことがあった。
この見合いの話も一番下の叔母の、夫の家族の誰かがが持ってきた話だ。
ピスタチオの名産で有名な町出身の8歳年上のモハンマド。
初めて会う時、母の代わりに、母たっての願いで一番上のおば、つまりアハマドの母と
一番年上の嫁ということでナツミが付き添った。
印象は多少小太りの、優しそうな青年。
しかしスタイルを補って余りある高級な衣服を着ていた。
派手ではなく、いわゆるシックというやつだ。
マリヤムは黒のチャドルを脱がなかった。
モハンマドの母が何度もすすめ、誰かのメッカ巡礼土産の布を自ら縫ってマリヤムにと持参した物だ。
叔母が目配せして、ナツミがありがとうございます、と受け取り、マリヤムをいざなって
祖母の寝室だった部屋に行き、羽織り直した。
上品な薄い紫の生地に細かいバラの模様だった。
ナツミは、これ、シルクじゃない?と言った。
そうかもしれない。
新しいチャドルで出てきた未来の嫁を見てモハンマドの母親はたいそう喜んだ。
サブズ=緑、小麦色の肌もこう呼ぶ。少し浅黒い肌のマリヤムに薄い紫はよく似合った。
モハンマドは少し赤くなって湯呑の中の紅茶ばかり覗き込んでいた。
この数週間後、モハンマドと母親はナスリンを見舞った。
ナスリンはとめどなく落涙し、モハンマドの手を握り、
「娘は強い女です。でもあなたに盾突くことなどしません、どうか娘をよろしく」
と言い、彼は心から「お任せください」と泣きそうな声で答えた。
ナスリンは何回も医師の告げた余命をくつがえしたが、とうとう力尽きた。
死の三日前、彼女は病室にマリヤムを呼び、寝つけないから、と家から持ってきた枕の
カバーを外せと言った。
枕の端には20センチほど赤い縫い糸の目があり、それを引き抜けと言う。
中を探るとビニール袋に包まれたドル札の束が一つとそれ以外の金をマリヤムが引き出せるよう、
自分の死後、一番上の叔母と息子アハマドがマリヤムの後見人となる、という
書類があり、弁護士への支払いはもう済ませてある、と言った。
父ナデルにも、弟サイドにも言うな、と息も絶え絶え娘の手を握った。
「にっこり笑ってモハンマドになんでもねだりなさい、自分からお金を出してはダメよ」
そう言って気を失った。
マリヤムはこの日、人生で一番泣いた。
その代り母の死んだ日は冷静だった。
葬儀の一連の段取りも叔母達に手伝ってもらって、こなした。
叔母達の家族らも、なんて強い娘だろう、良い娘だ、モハンマドは果報者だ、と口々に言った。
勿論モハンマドもいい婿だ、と皆が褒めた。
四十日の法要までに、墓石を調達してマリヤムが選んだ言葉とナスリンの写真を
コンピューターを使う墓石業者できれいに作らせ、約束通り母親の隣に埋葬された。
人が集まる日の食事やフルーツもすべて手配した。
生前はテヘランの端っことこの街と遠く離れていたナスリンと祖母であったが、
ナスリンは、皆に「死んだ後のことなんて考えちゃダメよ」と言われつつも
自分のお金を一番上の姉、アハマドの母に渡して「母さんの隣に葬ってほしい」と頼んでいたのだ。
四十日の法要も過ぎ、さて結婚式の段取りは、と皆が言い出す頃だった。
まず父のナデルがやらかした。
仕事探しにテヘランに行き、なかなか仕事が見つからずムシャクシャしている時に、
知人の所を渡り歩き、しかし風呂まで浴びるのは迷惑と言うもの、
公衆浴場で済ますこの2週間に疲れてきた。
アハマドがナスリンの長姉である母親と暮らすアパルトマンに2、3日泊めてくれないかと頼んだ。
妻のナツミは日本の学校の休みが終わるので息子とともに既に帰国していた。
アハマドは「臭うぞ」と言った。
アハマドは親戚中でも有名な嫌煙家。
ナデルは「吸う時はバルコニーに出るよ」と言った。
「最後の一吸いの後の息は外に吐いてこいよ」と細かいことを言われた。
ナスリンの姉、シャヒンはナデルが妹を苦しませたと感じていたのであまり話も交わさない仲だ。
居心地が悪いので朝はアハマドに頼んで弟のダニヤルが働アハマドのくゴールドショップが入った
ショッピングモールに連れて行ってもらい、新聞を買って日陰に座って広告のページを隅から隅まで
探した。
トイレに降りてきたダニヤルが「暑いだろう、エアコンがきいてるから店でやれよ」と言ってくれた。
電話で数か所、面接をしてくれる所が見つかり、どこも明日来いというので時間を調整した。
ダニヤルは「兄貴もお袋もうるさいだろ?最初の面接には送ってやるから今日はうちに泊れよ」と
言ってくれ、内心ホッとして、店じまいの少し前にやってきたアハマドに話すと、
じゃあ、そうしろ、と言ってダニヤルにもう帰っていいぞ、と言い、
売上を計算するところをナデルに見られたくないので弟達を帰らせた。
ダニヤルの妻のパルヴィンは、アハマド言う所「下賤な出の女」で、ダニヤルの金で
シミやらソバカスやらをレーザーで焼いたとか、義理兄嫁のナツミに競ってゴールドジュエリーを
セットで買わせたが、所詮は「下賤な出の女」、邪視が怖くて銀行に預けたきりだとか、
色々言われている。
兄貴の一人は指名手配犯だとか、姉だか妹は売春で刑務所に居るが定期的に
父親が賄賂を払っているのだとか。
そんな中で育ったパルヴィンを絨毯にねじ伏せたのはこれまたナツミだと言う。
原因は姑に軽口を叩いたパルヴィンをナツミが咎めたことだと言う。
空手だかカンフーをやっていたとか聞いたが、亡き妻ナスリンの系統には姉妹たちだけでなく、
嫁までも女傑揃いということか。
今日はやらない、と決めていたが、3件の面接を抱えて明け方どうにも目が覚めた。
どうしても耐えられず、オーブンの中の布に包まれた薄いパンを出して、冷蔵庫から塩水に浸かった
白いチーズを出し、パンにくるんでを続けざまに三枚食った。
牛乳があったのでそれも半分ほど飲んだ。
そしてバルコニーに出て、スラックスのポケットから出してきた包みを広げ、短い針金に
大麻樹脂をへばりつかせてライターであぶり、プラスチックパイプで吸い込んだ。
朝起きてきたパルヴィンは、
「アガナデル!(アガ=Mr.)食べてもいいけど散らかさないでよね!」と一喝。
ナデルは、悪い悪いと言ってパンと牛乳の他に何か必要か?と聞き、
近所のスーペル(小規模の雑貨店、食品も扱う)でキュウリのピクルスとチーズ、
牛乳を買い、薄いパンだけを焼いているパン屋で順番待ちに並び、買って帰った。
起きてきたダニヤルは、いくらかかったか聞いてきて財布を出した。
ナデルは断ったし、パルヴィンも後ろで目を見開いてみていたので、
実は夜中に腹が減ってあれこれ食べちまった、だから元からアンタの物だ、と言った。
ダニヤルは、じゃ、まぁ、と財布をしまい、起きてきたパルヴィンの連れ子も一緒に
朝食を食べ、ダニヤルの長いシャワーの終わるのを待った。
パルヴィンの入れた紅茶を飲みながら手割の砂糖をジャリジャリと噛み砕き、
心の中では「あと一吸い!あと一吸い!」と悪魔が囁き、手が震えた。
これはまずい、タバコを吸おうとバルコニーに出ようとするとパルヴィンは
ウチの換気扇、強いのよ、いいわよキッチンで吸っても、と声をかけた。
パルヴィンが天使に思えた。
ナデルは大急ぎでほんの小さなひと塊を針金にくっつけて急いであぶって煙を吸い込んだ。
頭の中の楽隊がファンファーレを演奏し、ユル・ブリンナー扮する王様が
白い肌の女教師と踊りだした。
ナスリンは機嫌が良いと英語でその歌をよく歌っていた。
シャワーが止まった音がしたのでナデルは思わず朝食の食器を洗剤多めに泡立てて洗いだした。
パルヴィンは「アガナデル!いいのよ、気を使わないで!」と言ったが、
「もう洗い終わるさ!」と言って、夫の視野に入らない時はグータラなこの女は、
「ダステショマダルドナコネ!(お手数おかけしまして!)」とソファに寝そべったまま答えた。
風呂から夫が呼ぶとパルヴィンはそそくさとタオルを持って行き、
呼んでくれたら背中をこすったのにとシナを作っていた。
もちろんいつもより早い時間に起きてくれ、彼を送ってくれるのだが、
ダニヤルの長身繕いにはかなりまいった。
髪型を決めてはシャツはどれを着る、それだとそのパンツは似合わない、と
夫婦でやり始め、ナデルは半ば諦めて壁に寄りかかり足を投げ出した。
足の指の間に痺れに似た感覚が起き、ふくらはぎがマッサージを受けたあとのように
ふわっと軽くなった。さっきの一吸いが効いていた。
その感覚を楽しむと亡き妻のことや、娘の結婚、息子の放蕩ぶりもどうでもよくなった。
しばらくその感覚にもてあそばれていると、やっとダニヤルの支度が済み、出かけることになった。
アハマドの店からもダニヤルの家からもそう遠くない場所で一つ目の面接となる。
ダニヤルは1、2枚のインフレで桁の膨れ上がった数字の紙幣をナデルの胸ポケットに押し込んだ。
断るナデルに、今日はタクシー代もかかるし、メシだってどこかで食うだろ?
それに使ってくれよ、と。
しかし、釘を刺された。「アレを買うには使ってくれるなよ。」
大麻のことである。
いや、こんな大変な時期にあんなもの吸わないさ、と嘯いて(うそぶいて)
礼を言い、車を降りた。
ダニヤルの「帰りは店に来いよ!またうちに泊ればいい!」との親切な言葉に手を挙げて応じた。
一件目は水回りの品物、キッチンのシンク、便器、最近増えてきたジャクジーの浴槽が
飾られた清潔で明るい店だった。
腹は出ているが、力はあるし、接客はさせられないが倉庫からこの店舗まで品物を運ぶとか、
これから配管を覚えてもらい、客の家に配送、設置をする仕事になるが?と言われ、
どんな仕事でもする覚悟だが娘の結婚の用意もしてやりたいので、大体日当はどれくらいなのか
図々しいのは承知ですが、と聞いてみた。
結婚式の日取りを逆に聞かれたので、答えると、そこまでに仕事を覚えていれば、と
電卓で示した。悪くなかった。作業着は辞めた者の古着、昼食は会社で出る、とのことだった。
携帯番号を伝えて明後日までに連絡が無かったら諦めてくれ、と伝えられた。
二件目の会社は、植木屋で、一戸建ての家やアパルトマンの中庭に植樹したり、
契約している果樹園にローテーションで夜中から明け方にかけて水やりをする人員を
探していると言う。
テヘラン郊外の場合もあるが、車は持たせてやると言う。
これも一応是非、と言い、連絡待ちとなった。
三件目は、ピザの配達員だった。遠目に店を見ると従業員も客も若者ばかりで、
こいらにへつらって仕事をするのはゴメンだ、と声をかけずに引き返した。
金はもらったがここからタクシーに乗るのが惜しく、バスでアハマドの店の入るモールまで行った。
反対側に公園があったはず、と歩き出した。
遠くから観察すると遊具と健康遊具の辺りには親子連れが何組かいた。
大通りに面したゲートには水仙の花を売る少年が立ち、通り過ぎる人々に
勧めてチョコマカと動いていた。
その奥の裏路地に面した小さなゲートの木の後ろでタバコを吸いながら
所在無げにしている男を見とめた。
ナデルはその男と周囲を見ながら近づいて行った。
男はナデルに気づき、向き直った。
「火を貸してくれ」タバコを出して話しかけた。
「兄さん景気はどうだい?」と言いながらナデルのタバコに自分の火くちを近づけた。
ナデルは「ちっともさ、金のかかることばかりで仕事はねぇし」と言い、
息をニコチンと一緒に吸い込んで、
「あるかい?」と切り出した。
男は答えた「吸いさしかい?チョコかい?」
「チョコを一つだ」とナデルが答えると値段を告げられ、金を払った。
「あの花売りのガキに青一つだと言え」と言われた。
踵を返して正面ゲートに向かうと少年がこちらを見てニヤッとし、ゲート脇の植え込みの方へ
手を伸ばした。
小さな声で「青一つだ」と言うと少年は青い小さな包みをナデルの手のひらに押し付けた。
「叔父さん、ママンが病気なんだ。妹も腹を空かしてる」と少年は言った。
「あっちの男から後ででもらうんだろ?福利厚生の充実は雇い主に交渉しろ」と言うと
少年はまたニッと笑い、「叔父さん学があるねぇ」と言い、通りかかった女性に
水仙の花はどう?と勧めに小走りで近づいて行った。
本当ならモールのトイレに直行したかったが、ダニヤルが今夜も泊めてくれるのか
確認してから、と思い、大通りを渡ってモールの正面階段を軽い足取りで駆け上ると
後ろでキャーッと声が上がった。
ふりむいたナデルの視界の一番奥にさっき自分に大麻を売った男が四人の警官に取り押さえられ、
悲鳴を上げたのは花売りの少年で屈強な警官に羽交い絞めにされており、そして今まさに、
自分に向かって5人の警官が掴みかかってくるのが見えた。
頭の中で自分が囁いていた。
「あと一吸い、あと一吸い…」
階段で引き倒されたのでナデルは顎をしたたかに打ち、気を失った。
その時思った、「痛み止めにあと一吸いさせてくれ…」
夜九時頃になってアハマドの携帯に市内からの固定番号で電話がかかった。
ダニヤルにも見せたが「知らん」と肩をすくめた。
電話に出たアハマドの顔は暗雲にわかに掻き曇り、「では、明日一番に。はい、伝えます。」と
答えた。
ダニヤルと妹の夫のイブラヒムはアハマドの顔を覗き込んだ。
「俺たちの叔母を苦しめただけじゃ気が済まないのか、あの男は!娘まで!マリヤムまで!」
と、ショーケースの上に携帯を乱暴に投げ出した。
テヘラン市内の警察署からだった。ナデルはアハマドの名前を挙げたらしい。
テヘランのベッドタウン、キャラジに住むイブラヒムには何があったか話して帰らせ、
母親の待つアパルトマンへダニヤルは車で、アハマドはバイクで帰った。
母親の故郷の祖父母の住んだ家に父の血をよく引いたサイドと暮らすマリヤム。
彼女にどう伝えるか三人は話し合った。
ダニヤルはしばらく座っていたがパルヴィンから電話が入り、帰ることにした。
弟を猫かわいがりする母はダニヤルの足音が途絶えてドアの閉まる音がするまで玄関で
ドアを細く開けて見守った。
その姿を見てアハマドは叔母ナスリンのなんと心残りなことだろう、と思った。
本当なら娘の結婚式にも出席し、こうやって年をとっても孫やすっかり成長した息子を心配したり、
それも幸せの一つであったろうに。
とりあえず軽い夕食を温めだした母を見て、自分の部屋に入り、パソコンを立ち上げてみた。
ネットに繋ぐとナツミのメッセンジャーがオンラインだった。
コネクトするとすぐに日本語で「もしもし!」と返事があった。
こんな遅くまで起きているのか、と聞くと月末だからこんなもんでしょ、と事も無げに答えた。
実は、と事の顛末を話すとナツミは、
「ハーレファルザネ(ハーレ=おばの意)にまず電話して、娘達を部屋へ入れて、
旦那のマスードさんとマリヤムと三人で、話した方がいいよ、一人のとこにそんな知らせは
しちゃダメ!ハーレに全て話してもらって」と的確に指示してよこした。
「そうだね、一人のとこでこんな話はできないよな」
電話を切り、母が温めたスーペジョウ(麦スープ)にパンの簡単な食事をしながら、
食べながらスマン、携帯を手に言うと、
あっちもマスードの作ったトマトのオムレツをフライパンから
こそぐ音をさせて、お互い様よ、と話しを始めた。
今、電話してマリヤムをこっちへ来させるわ、まだ起きてる?と聞かれ、
ああ、起きてるよ、来たらまた電話してくれ、と言った。
ファルザネは美容室を営んでいる。彼女が稼ぎ、三階建ての家が一つ、スーペルを一つ、
シャンプーや化粧品を中心に衛生雑貨を扱う店も美容室の上に一つ。
化粧品が切れたら半地下の美容室に用立てるので一石二鳥というわけだ。
ミスター・マスードは本物の髪結いの亭主ね、といつだったかナツミが内緒で言っていた。
母は、ナツミはまだ起きてるの?と心配そうに言った。
大丈夫だ、明日は土曜で休みだから、と答え母を安心させた。
マリヤムのことを思うと気の毒でスープの味がわからないまま
いつもよりパンを多く食べてしまったアハマドであった。
「マリヤム(仮名)の人生。2」に続く。





